英国の大経済学者ケインズは1883年に生まれ、1946年に62歳で逝去。
ケインズはケンブリッジ大学で数学を専攻し、1906年英国のインド省の官僚として社会人デビューするが、2年で官僚を辞めケンブリッジ大学に戻り研究者への道を選んだ。しかし、1915年には英国大蔵省に移り、それから1919年にドイツへの巨額賠償金に反対して大蔵省の職を辞すまでの4年間ばかりは再び役人生活を送った。
一方、ドイツの政治家ヒトラーはケインズより6歳若く1889年に生まれ、1945年に56歳で連合国側のソ連に首都ベルリンを陥落され観念し自害した。
余談ながら、「Hitlerヒトラー」の姓名の語源は、「Hiedlerヒードラー」で「日雇い農夫」「小農」を語源とする姓名であり、それほど珍しい姓名でもなかったとされている。「ヒトラー」「ヒードラー」「ヒュードラ」「ヒドラルチェク」などの姓は東方植民したボヘミアドイツ人、およびチェコ人・スロバキア人などに見られるそうである。
話は時代を遡り1919年の話となるが、ドイツが第1次世界大戦で敗れ、すったもんだの末にバカなほど高額な賠償金を負担させられた結果ドイツ経済は行き詰まる。それが世界経済に波及して、1929年には世界大恐慌が起きる。そこで待ってましたとばかりに、ヒトラーが登場して来るのである!
そして1933年以降ヒトラーは、1936年に発表の【ケインズ理論】をまるで先取りした経済政策により、600万人のドイツ失業者をたった3年で100万人までに減らしたのである。また大企業と高額所得者には増税を、その他には減税を実施。それ故に、多くの国民から絶大な支持を得たのである。その当時には、後にヒトラーと激しく敵対する英国のあのチャーチルでさへ賛辞を送っているほどだ。
思えばむしろケインズの方がヒトラーを参考に、【ケインズ理論】を書いていたのかも知れない!
第1次世界大戦後のドイツの賠償金に関しては、当時英国の大蔵省A課がドイツに課す賠償額策定の任に当たっていた。1918年には責任者として、ケインズ自身が就任した。A課は11月に「ドイツの支払い能力は高めに見積もれば40億ポンド、楽観的に見れば30億ポンド、慎重に見れば20億ポンド」になるという見通しの報告書を作成し、閣議に提出した。しかし、政府は大戦前のドイツ貯蓄を基準として賠償請求額は何と240億ポンドにすべきであると主張したのである。
1914年には【1ドル=4.2マルク】の公定レートであったが、戦争中を通じて次第にマルクが下落。1918年11月時点には【1ドル=約7.5マルク】。当時【1ポンド=約5ドル】からすると、【1ポンド=約38マルク】。【40億ポンド=約1520億マルク】、【20億ポンド=約760億マルク】となる。
しかし、最終的にドイツの賠償金額は、総額は【1320億マルク(純金47,256トン相当)】という、【現在の日本の円に換算すると200兆円】を優に上回るイメージであり、1913年当時のドイツ国民総所得の2.5倍という莫大なものとなり、ドイツはこの金額を向こう30年間にわたって分割払い、しかも外貨で支払うことになった。
当然ドイツ国民としては、「あまりにもヒドイではないか!」とみんな頭に来たはずである!
ドイツへの巨額賠償金に対しケインズは反対したが、1919年10月の【ベルサイユ条約】で決定された。その結果、一方的に貿易における勝ち逃げをした米国による【金の不胎化】や賠償金の【マルク払いを禁じた】ヤング案により、ドイツでは歴史に残る【ハイパーインフレ】が発生するのである。この歴史的なインフレが、米国に巨額の戦債の不良債権化をもたらし、1929年の米国株式市場の暴落、そして【世界恐慌】へと繋がって行く。さらには、ヒトラーによる【ナチスドイツ】が台頭する引き金となったのである!
1936年、ケインズは彼の代表作となる『雇用・利子および貨幣の一般理論』を発表し、激しい経済学論争を呼び起こしたが、この書に端を発する【ケインズ理論】はまもなくして【ケインズ経済学】として世界の経済学の主流となった。
『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年 )では、【不完全雇用】のもとでも均衡は成立し得るとし、また【完全雇用】を与えるための理論として、【反セイの法則】を打ち立てて、「産出高は消費と投資とからなる」とする【有効需要の原理】を基礎として、有効需要の不足に基づく非自発的な失業の原因を明らかにした。
【有効需要】は、市場メカニズムに任せた場合には不足することがある。しかし、ケインズは、投資の増加が所得の増加量を決定するという【乗数理論】に基づいて、【減税・公共投資】などの政策により投資を増大させるように仕向けることで、【有効需要】は回復することができるとした。生産者が価格を変えずに、供給量を総需要に応じて調整する。ケインズは【総需要】を増大させる方法として、財政政策、特に【財政支出政策】を重視した!
思えば2008年のリーマンショックによる世界金融危機以降、マスマス日本企業が保有する現預金は増大傾向にあり、2016年度でも現預金額は約 211兆円にも上った。
この金額はまさに第一次大戦後のあの巨額なドイツの賠償金額に、匹敵する金額の現預金額ではないか!
ケインズ理論を踏まえると、「失われた20年や30年」と言われる日本経済の低迷は、この預金を200兆円を抱えたまま何らホンキで投資してこなかった、「ヒトやモノやコト」への供給不足という至極シンプルな理由と思えて来るのである!
しかし、まぁまたサラリーマンCEOが要らぬことをして失敗しゼニを失くすよりは、何もしないでカネを抱いてじっとしている方がまだマシか、という日本の多くの真面目なCEOたちの思いも分かる気はするのだ(笑)
ヴァイマル共和政のハイパーインフレーション – Wikipedia
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