ある雑誌を読んだら「日本の農業は世界一保護されている」という記事を目にした。その一方で、別の雑誌には「日本の農業保護は欧米諸国よりも劣る」という真逆の意見が載っていた。これは一体日本の農業は、どないになっているのか?かなり多くの方が、こんな思いをした経験があるのではなかろうか?
Witch is true ?
一体どちらが本当なのだろうか?
三菱総合研究所(MRI)の解説によれば、こんな訳の分からない話になる理由のもとは、日本は価格支持政策を主体に農業保護を実施している一方で、EUや米国は農家への直接支払いを主体に農業保護を実施しているという土俵の違いにあった。
つまり、日本は価格支持政策にはそこそこお金は出しているが、農家への直接支払いは実は少ないのである!
そこでもっと日本の農業政策を総合的に見渡した場合、決して「日本の農業保護の水準は世界一高い」というわけではなかった。ただし、どの指標でもOECD平均と比較して1.6倍から2.3倍ほどであり、相対的には高めだというのが日本の農業保護水準のおおよその今の実状ではなかろうか!
しかし、それにもかかわらず、日本の農家はドンドンと減るばかりである。農林水産者の発表によると、2010年の「農業就業人口」は約260万人。しかしその後は、毎年10~50万人ほど減り続け、2022年には約123万人にまで減少した。もうすぐ100万人割れが目の前に来ているのだ!
昭和の時代の1960年には約1270万人の農業就業人口があった日本の農業に、令和の危機が今来ているのである!
つまり我々国民が『ずっと農業を国に丸投げして来た』、これまでのツケが今ドッと押し寄せて来ているのだ!
日本の農業保護における最大の負担は、コメ・水田に関連する負担である。この現実は、日本人の主食はコメであるため、やむを得ない結果であるが、コメ・水田関連の政策検討は食料安全保障を考える上での重要項目でもあることを踏まえ、あらためて我々日本国民一人一人が真摯に考える必要がある!
そこで重要な一つの事実は、かつてコメの価格は今よりもっと高かったというシンプルな話である!
1995年の食糧管理法の改正前、コメの卸売価格は現在のほぼ2倍の60kg当たり2万4,000円前後であった。それが食管法改正後はずっと30年近く下がり続け、現在の1万3,000円前後にまで低下したのである!
コメの価格はこの約30年で半値に近くまで下がり続けてきた!
失われた30年という日本経済のデフレの状態を、コメがまるで象徴しているかの如くなのである!
価格低下の結果を踏まえれば今の現状は、大規模農家の育成や担い手への集積という政策的な誘導もあって、農家数が激減した割には、なんとか農地がギリギリ維持されてきたこの20年間だったといえる。
しかし、過去20年程度の農地集約や経営体の大規模化を経て、かなりの大規模農業経営体が既に一定の経営効率を達成しており、もうこれ以上の中途半端な規模拡大に経済的合理性がなくなってきた経営体も増えている、そんな厳しい現状に直面して来ているのだ。
ハッキリ言って、もう既にホンマにヤバい状況なのである!
現在日本全国では、全経営耕地の面積約320万ヘクタール(ha)のうち、コメ・小麦の生産に170万ヘクタールhaが利用されている。
この現状を踏まえ多様な分析方法を用いてコメ・麦の将来推計を、三菱総合研究所(MRI)が行った結果、「コメ生産者の減少により、2040年における成り行きの耕地面積は現状170万ヘクタール(ha)から、何と激減して77万ヘクタール(ha)に減少すると推計し、食料安全保障上で必要な面積(113万ha)との差分36万haを耕作する担い手の維持・確保が重要」と提言しているのである。
この推計に基づくとすれば、特段の手段を何ら講じずに成り行きで77万haになりうる状態から、113万haへとプラス36万haの「担い手の維持・確保」を目指すのであれば、今まで以上の政策誘導が必要になる。つまり、その分のコメ・水田関連への我々国民の税金の投入がさらに増加することは、一目瞭然なのである!
足元の現在では、コメ農家の95%は赤字にもかかわらず、コメ生産を続けている。所得ベースでみても、半数の農家が所得赤字である。なぜ赤字にもかかわらず、多くのコメ農家はコメを作り続けてきたのだろうか?
実は、あまり表には現れない、経済合理的な理由が存在しているという。ポイントは2つある。第1のポイントは、兼業農家であれば、農業の赤字をサラリーマン所得と損益通算(赤字の所得を他の黒字の所得から差し引くこと)することによって、ある程度はカバーできるということである。
第2のポイントは、消費者に直接販売することによって、実質的な赤字が減少するということである。赤字と言ってきた所得赤字11万円の前提は、売上価格を農協などに販売する卸売価格(60kgあたり1万2,000円)でみた場合の理論値である。
以上をまとめると、統計上や確定申告上、農家の84%は赤字だが、自家消費用米の価値まで含めて考えれば、小規模農家まで含めたほぼほとんどの農家が所得ベースでは赤字ではないと考えられるということ、トントン程度なのだそうだ。
それでは収支トントンだとするならば、逆になぜ、近年これほどまでに離農が進み、農業就業者がドンドン減少しているのかという疑問がわく。
恐らく一番大きな理由は、コメの価格の低下により、小規模農業の所得では、『もはや労働時間にコストがまったく見合わない』という実にシンプルな経済原則の話であろう。
2010年から2020年のまでの10年間で、農業経営体数は170万から107万経営体までに激減した。そして、とうとうついに2022年には100万を割り込み97.5万経営体となったのだ!
ホンマに危機がもう目の前に来ているのだ!
先程の10年の激減期間を通して、高齢化により機械を更新しなければならないタイミングで自前の耕作をあきらめる農家が増加し、近隣の中規模・大規模農家に委託するという流れが必然的に大きくなった。近年のコメ価格の低下基調も加わり、この20年前後でこの流れが一気に大きく進んだのだ。
しかし、三菱総合研究所(MRI)が2040年における耕地面積は現状170万ヘクタール(ha)から、激減して77万ヘクタール(ha)に減少すると推計した、本当の問題の核心はここから先にあるのだ。
これまでは早期退職を選んで専業農家化する動きが各地でみられた。集落営農法人として地域のコメ作りを主導する法人の設立も相次いだ。
その中心を担っていたのが、2000年ごろに企業で定年を迎え始めた団塊世代のサラリーマンである。その多くが現在は80歳代にさしかかっており、農業を継続する限界にきている。そして、その後には団塊世代ほどの人口ボリュームがある世代は存在しないのである。
『つまり、後を継ぐ人がもういないのだ!』
大規模水田耕作の経営効率を高める上の最大のポイントは「人と農機の稼働率をいかに上げるか」にある。近年話題になっているスマート農業などの新技術よりも、はるかにこの点が重要でなのである。要するに労働力1人・1台のトラクター・1台の田植え機・1台のコンバインを、どれだけ長い間、稼働させ続けられるか、ということが最大の胆なのである!
過去20年程度の農地集約や経営体の大規模化を経て、かなりの大規模農業経営体が既に一定の経営効率を達成しており、これ以上の中途半端な規模拡大に経済的な合理性がなくなってきている経営体が増えている、つまりもうこれ以上の農地への対応には現状では限界が近づているのだ。
さらなる問題は、大規模農家にとって好条件の農地が非常に少なくなってきている点である。職業として農業経営に取り組み、経営効率を追求している大規模専業農家においては、1枚10a(1反)のような小さな農地の引き受けは、頼まれても断わらざるを得ない。「趣味としてならやれる農地」と、「職業として成り立つ農地」の間には明らかに大きな違いがあるのだ!
企業経営が意識される売上高1億円以上の大規模農家になるには100haの集積が必要だが、このレベルの企業経営に求められる経営効率には対応できない小さな農地、すなわち頼まれても断わらざるを得ない狭い農地が日本には非常に多いのである。
『つまり、日本の水田の約4割を占める中山間地の多くが、消滅せざるを得ないシナリオが目の前に突きつけられているのだ!』
中山間地域とは、農業地域類型区分のうち中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域を指している。
中山間地域は、全国の耕地面積の約4割、総農家数の約4割、農業産出額の約4割を占めるなど、我が国の農業において重要な役割を担っている。
また、雨水を一時的に貯留する機能(洪水防止機能)、土砂崩れを防ぐ機能(土砂崩壊防止機能)といった多面的機能が適切に発揮されている中山間地域は、国民の大切な財産だと農林水産省も認めている。
個人的には、政府が若者20万人を20年間特別公務員としてニーズのある地域に雇い入れ、農業就農者とするくらいのことが最低限必要と考える。平均給与一人500万円で20万人、年間1兆円、20年間で20兆円である。2022年度の一般会計総額が約108兆なので、増税無しで、すべての省庁の予算を毎年1%ばかりカットすれば1兆円は可能である。ずっと農業を政府に丸投げして来た反省として、他のことを我々日本国民が100分の1だけ毎年我慢すれば済むのだ!
食料安全保障問題、失業対策問題、非正規雇用問題など他、一石二鳥を超えて三鳥、四鳥、五鳥になるかも知れない(笑)
17. Japan | Agricultural Policy Monitoring and Evaluation 2023 : Adapting Agriculture to Climate Change | OECD iLibrary (oecd-ilibrary.org)
日本の農業生産を維持する国民負担の水準は?食料自給率と安全保障 第3回 | 食料自給率と安全保障 | 三菱総合研究所(MRI)
小規模コメ農家の経営継承は危機的状況食料安全保障と農業のキホンの「キ」(5) | 食料安全保障と農業のキホンの「キ」 | 三菱総合研究所(MRI)
コメ農家が赤字でもコメを作り続ける理由食料安全保障と農業のキホンの「キ」(4) | 食料安全保障と農業のキホンの「キ」 | 三菱総合研究所(MRI)
日本の農業ビジネス!
海の日に日本漁業の人手不足を憂う!