大谷翔平選手が高校生の頃から、中村天風先生を尊敬する背景には、単なる技術や体力だけではなく、「心と体の調和」による真のパフォーマンス向上という哲学への共鳴がある!
天風先生は、自己の内面を鍛え、ポジティブな思考と自律した精神で現実を切り拓くという教えを説かれた!
中村天風先生(1876-1968)の「心身統一法」は、独自の心身鍛錬法や自己啓発のメソッドで知られており、その中でも呼吸法のクンバハカは特に重要な要素のひとつである。
天風先生は、1911年の運命的な出会いによって、ヨガの聖者からヒマラヤの麓で2年半に及ぶ指導を受けられ、クンバハカも学ばれたのである。そして、ついに当時不治の病であった結核をみごとに克服されたのであった。
天風先生のお話によると、神経反射の調節(クンバハカ:最も神聖なる状態)とは、 宇宙根本主体の持つエネルギーの収受量を増やすことである。
クンバハカとは、息の合間合間に尻肩腹三位一体となること。
天風先生が師であるヨガの聖者から与えられたヒントは、「息の合間合間にひょいと体を水を入れた徳利のようにして、したと同時に瞬間息を止めろ。これがクンバハカだ」
第一に、肛門をキュッと締める。
第二に、肩をできるだけ緩める。
第三に、おへそにグッと力を込める。
この瞬間息を止める。吸って止めて、出して止めて。 この止めた状態がクンバハカ。
どこから圧を掛けても同じこと。
とのことである。
「クンバカハ」という言葉は、サンスクリット語の「Kumbhaka」(=呼吸の保持)に由来しており、伝統的なヨガや呼吸法の実践の中で用いられる概念である。天風先生はこれを独自に取り入れ、呼吸を意識的に調整することで、心と体の調和や内なるエネルギーの循環を促す手段として提唱しておられる。
『クンバカハ(呼吸保持)の基本』
<意味と背景>
クンバカハとは、呼吸の自然なリズムの中で、吸気や吐気の後に意識的に「息を止める」状態を作ることを指す。伝統的なプラーナヤーマの技法のひとつとして、体内に流れるエネルギー(気やプラーナ)を活性化させ、自律神経のバランスを整える目的で行われる。
<中村天風先生による解釈>
天風先生は、ただ単に呼吸を止めるのではなく、呼吸と精神状態の一体感に注目された。具体的には、深く自然な呼吸を行いながら、その一瞬の「停止」の状態で心を研ぎ澄まし、内面の静寂や集中力を育むとされる。これにより、ストレスの軽減、精神のクリアさ、さらには創造力や問題解決能力の向上が期待される。
以下は、クンバハカを実践する際の基本的な流れを、肛門、肩、丹田、それぞれの動作とタイミングについて、できるだけ分かりやすくまとめたものである。
① 準備と姿勢の確立
まず、座った状態で背筋をまっすぐ伸ばし、両足をしっかりと地面につける。体全体がリラックスしている状態を確認する。この時点で、肩、腹部、骨盤などが自然なニュートラルポジションにあることが大切である。
② 深い吸気
次に、鼻からゆっくりと深い息を吸い込む。胸と腹部が広がるのを感じながら、体内に新鮮な空気が満たされるイメージを持とう。吸気中、肩に少し力が入ってしまいやすいので、注意が必要である。
③ 吸い込み完了した直後のポイント(呼吸保持開始時)
息を十分に吸い込んだ直後、つまり肺に空気が満ちた瞬間から、以下の3つの動作を同時に行う。
肛門の締め(骨盤底筋の働き、Mula Bandha):
肛門周辺の筋肉を軽く引き締める。この動作は、体内にたまったエネルギーが外に逃げないようにするためのものである。こちらも無理のない、自然な収縮を心がける。
肩のリラックス:
吸気が終わった瞬間に、無意識に固まってしまった肩の力をすぐに手放して、自然に下ろす。肩は常に柔らかくリラックスさせておくことが重要である。
丹田(下腹部)の活性化:
同じタイミングで、おへその少し下あたりにある丹田に意識を集中する。この瞬間に、腹部の中心部分を軽く引き締めるようにする。力を入れすぎず、あくまで「芯を感じる」程度の収縮である。これにより、吸い込んだエネルギーを丹田に集める効果が期待できる。
これらの3つの動作は、それぞれが連動して行われることで、体内のエネルギーの流れが整えられ、内面の集中力も高まる。
④ 呼吸保持中の維持
息を止める期間(クンバハカの保持中)は、先ほどの状態を維持する。すなわち、肩は常にリラックスしたままで、丹田と肛門は最初に行ったような軽い収縮状態をキープする。そして、その間、自分の体内でエネルギーがどのように巡っているかを感じながら、静かな集中状態を保つ。 ⑤ 呼気(放気)への移行
息を吐き出す直前になったら、少しずつ丹田と肛門にかけた軽い力を解放し、同時に全身のリラックス状態に戻る。完全に息を吐き出すとき、体内に蓄えたエネルギーが自然に外へ流れていくのを感じながら、ゆったりと呼気を行う。
まとめ
- 準備段階: 正しい姿勢で体をリラックスさせる。
- 吸気: ゆっくりと深く吸い込み、胸と腹部が広がるのを感じるが、肩に余分な力が入らないよう注意する。
- 吸気完了直後(呼吸保持開始時):
- 肩はすぐに力を抜いてリラックスする。
- 丹田に意識を向け、軽く引き締める。
- 肛門周辺の筋肉も軽く締めて、エネルギーを体内に留める。
- 呼吸保持中: これらの状態を維持しながら、内側のエネルギーの流れに集中する。
- 呼気: 息を吐く際に、丹田と肛門の収縮をゆっくり解放し、全身を再度リラックスさせる。
この一連の流れを無理なく、自然な感覚で練習していくことで、クンバハカの効果が高まり、内面的な集中力とエネルギーの調和が実感できるようになる。初心者の場合は、鏡を見ながらまたは熟練の指導者のもとで、自分の感覚を確認しながら練習することをおすすめする。
中村天風先生の「クンバカハ」は、単なる呼吸保持のテクニックではなく、呼吸と心の調和を通じて内面のエネルギーを研ぎ澄ます実践法である。具体的な方法としては、深い呼吸と自然なリズムの中で、一瞬の呼吸停止を設け、その間に心を静め、エネルギーの流れを感じ取ることに重点が置かれている。
これにより、精神的な明晰さ、ストレスの軽減、さらには身体全体のバランスを整える効果が期待でき、現代の多忙な生活の中で自己の内面と向き合う一つの効果的な手段となるであろう。