戦国時代、当時の様子を書いた宣教師ルイス・フロイスの『日本史』にも紹介され、欧州向けの地図上にも大きく記載されていた『根来寺』についてネット検索していると、偶然にもこんな楽しい講演録に出会った。
総本山智積院の愛宕薬師フォーラムにおける、東京工業大学名誉教授の本川達雄先生の講演、「老いの生き方ー人にしかない貴重な時間ー」である。
その中で、特にオモシロイと思った箇所を以下に紹介する!
「私たちの心拍は1秒で一回、ハツカネズミは0.1秒、ゾウは3秒、クジラは9秒に一回です。体が大きいほど心臓一拍の時間が長いことがわかります。
そこで心拍と時間の関係を調べてみますと、心拍の時間は「体重の四分の一乗」に比例する(体重が10倍になると、時間は約2倍になる)ことが導き出されます。
つまり体が大きいほど時間がゆっくり流れる関係になっています!」
「この「体重の四分の一乗」に比例する関係は、心拍だけではなく息を吸って吐く呼吸、腸の蠕動(ぜんどう)、懐胎期間(人間十月十日、ハツカネズミ20日、ゾウ600日)、成獣に達する時間、寿命などがあります。
小さい動物は何でも速く、大きい動物はゆっくりです。これらのことから私は、ゾウの時間やネズミの時間があってもよいと考えています。いうならば、生物には生物独自の時間があるわけです!」
「この「体重の四分の一乗」に比例する関係は、もう一つそれに当てはまる関係式があります。
それはエネルギー消費量です!
体重あたり(細胞一個のエネルギー消費量=細胞がどれだけ活発に働いているかの目安)のエネルギー消費量は、「体重の四分の一乗」に反比例します。
つまり時間とエネルギー消費量は反比例するので、時間とエネルギーを掛け算しますと一定の値になります!
仮に、寿命とエネルギーとを掛け算しますと、『一生の間の消費エネルギーは同じ』ということがわかります。
つまり『一生のエネルギー消費量(仕事量)は、人間もネズミもゾウもどの生物も同じ』といえます!」
「そして、同じになるのは仕事量だけではありません。それぞれの動物の時間を「心臓時計」で計った場合、呼吸1回につき4回の心拍、寿命は15億回の心拍と、すべて同じになります。
私たち人間も、心臓が15億回打つと死ぬようになっています!
(筆者コメント:心拍は1秒で一回を前提に15億回を計算すると、人の寿命はおよそ47歳ということになる。)
時計の時間の長さとしては、ネズミの寿命は2年、ゾウは70年といわれますが、これまでみましたように、一生の間にする仕事量や心拍の回数は、どの生物でもすべて同じです。エネルギーを使うということは、その分だけ食べることでもありますが、一生に食べる量は一定です。また寿命の長さも生物の大きさで決まるのです。」
「さきほど時間はエネルギー消費量に反比例することに触れましたが、これを換言すれば、時間の速度はエネルギー消費量に比例するといえます。
つまり『エネルギーを使うと時間が速く進む』のです!
ということは、逆にエネルギーを使わないと時間が止まることになります。冬眠はエネルギーを使わない代表例です。冬眠するリスと、しないリスでは冬眠するリスの方が寿命は長いのです。
冬眠中は、エネルギーを使わないで体が磨り減らないから長生きになるのでしょう。もちろん長生きしたいために冬眠するわけではなく、冬という住み難い時間をやり過ごすためにするのですが、このように生物が時間を操作しているのです!」
「私たち現代人は、どうしても時間は変えられないと、必死に時計の時間のベルトにしがみつき、できるだけ長生きしようとしますが、実は生物は時間の操作ができるのです!
私は、この事実を知ったときに、肩の荷が軽くなったように感じました。また、ただ長生きすることが目的ではなく、自身が積極的に時間に関わっていけるのが生物だとも思っています。」
以上が、紹介したかった箇所である!
人間も幼く体の小さな頃は、なんでも五感をフル活動、エネルギーをたくさん使うネズミ的な時間なので時計の時間の1日が、本人の感覚的な時間では2日分くらいに速くなっている可能性があるやも知れない。つまり、時間が速く進み、時計の時間の1日を長く感じるのである。
一方、高齢者になると、無理をしなくなり省エネとなる、エネルギーをあまり使わないゾウ的な時間なので時計の時間の1日が、本人の感覚的な時間では半日分くらいに遅くなっている可能性があるやも知れない。その結果、時間がゆっくりと進むので、時計の時間の1日を短く感じるのである。朝起きたと思ったら、エーもう夕方なのかよ!という年寄りの感覚である。
亡き親父が還暦を過ぎた頃によく言っていた、「歳をとると毎年1年が早く感じられる。1年の感覚は『年齢分の1』やなあ。」と。
最近では自分自身が、この親父の言葉を痛切に実感している!
そして、今回本川先生のお話に出会って、エネルギーをたくさん使うか使わないかが、ドンドン歳をとると時計の時間の1年が、本人の感覚的にはドンドンと短くなっていくことにあらためて納得したのである。
親父の言った言葉は、間違いなく真実であったのだと!
親父はエライ!
老いの生き方―人にしかない貴重な時間― | 真言宗智山派 総本山智積院 (chisan.or.jp) 東京工業大学名誉教授本川達雄先生