Representation=リプレゼンテーションは、造形芸術の文脈ではある事物の「再現」、演劇の文脈では作品の「上演」、政治の文脈では「代表」などと訳されるが、もっとも広い意味においては、人間が世界の経験を通じて生み出すイメージ全般(表象)のことである。
誠に多義性のある言葉なのだ!
この言葉そのものは、ギリシャ語の「phantasia」およびラテン語の「repraesentatio」に由来する古い言葉である。
この言葉は、プラトン以来の哲学においてもっとも多くの議論が重ねられてきた概念の一つである。
その定義は様々にあるが、アリストテレスが人間の本質を「表象能力」に定めて以来、「表象」が主体としての人間にとって不可欠な能力であるという点はおおむね共有されている。
この種の議論における「表象」とは、いわば人間が日常的に抱く心理的なイメージのことであり、そこでは人間が世界を経験するときの認識のあり方が問われていると言える。
もう一方では、「表象」とは人間の心理的なイメージばかりでなく、我々の身の周りに存在する具体的なイメージを意味する言葉でもある。
さらに20世紀後半からは、「知と権力の関係」を追求した哲学者ミシェル・フーコーや「オリエンタリズム理論」と「ポストコロニアル理論」を確立した文学研究者エドワード・サイードらの活発な議論を契機として、「表象」は実際の政治や文化の背後にある権力関係を分析するための概念として広く用いられるようになるのである。
21世紀の現代これがもっと進化し、政府や会社や団体などの組織が自己の内部に抱えているダイバーシティ&インクルージョンの在り様を示す「表象」として、リプレゼンテーションという言葉が使われるようになったのである!
今やRepresentation=リプレゼンテーションは、世界の映画の都であるハリウッドにおいても、顕著に大きな位置を占める存在となっているのだ。
是非2020年を思い出して欲しい。韓国のポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』が、第92回アカデミー賞で作品賞を含む6部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を受賞した。非英語作品(Foreign-Language Film)の作品賞受賞はハリウッド映画史上初めてのことであった。
この歴史的な快挙も、ハリウッドが重視し始めて来たリプレゼンテーションの流れの中で生じたのである。
そして、振り返るとその流れが明確にハッキリと示されたのが、恐らく2014年の第86回アカデミー賞だ。
2014年の第86回アカデミー賞の作品賞は、奴隷制度が廃止される前のアメリカで、南部の農園に売られた実在の北部の自由黒人を描いた、スティーブ・マックイーン監督の『それでも夜は明ける』が受賞。黒人監督として初の受賞であった。
また2017年には、第89回アカデミー賞の作品賞を『ムーンライト』でバリー・ジェンキンス監督が、黒人監督としては二人目の受賞となった。
加えて2017年10月には頻繁にニュースになった、多くのハリウッドの著名人が「#MeToo運動」に賛同を示し、「セクハラや性的虐待を見て見ぬ振りをするのは終わり」にする「タイムズ・アップ」運動が起き、「#MeToo運動」は世界中に拡がりを見せた。
これもまさに、リプレゼンテーションの流れの中で起きたことの一つである。
最近日本においても、「ダイバーシティ&インクルージョン」の看板を掲げる会社や組織も増えて来ているが、その内容の中味を具体的に示すリプレゼンテーションの方は一体どうなっているのであろうか?
寡聞にして知らないが、単なる看板倒れに終わらないことを祈るばかりである!
参照1:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』アカデミー作品賞、ミシェル・フーコー、エドワード・サイード、#MeToo運動
参照2:artscapeアートスケープ アートワード リプレゼンテーション
参照3:『PRIDE JAPAN』コラム リプレゼンテーションとは
ほんほん16 − 松岡正剛の千夜千冊 (isis.ne.jp)
万葉の日本人のリプレゼンテーションの方法とは?上記を御参照願います。