我々の「瑞穂の国」は、日本書記の国生みの神話の中に、イザナギとイザナミが夫婦のマグワイの仕方が分からずにいたところにセキレイが現れ、セキレイが尾を上下に振る仕草からマグワイの仕方を知ったという伝承を有する国である。
神代の昔から日本人も「鳥占い」を含め、鳥とは密接な関係があったことをよく現わした伝承であろう。
現在、ほとんどの「鳥占い」は消失してしまっているが、それらは文字の中にその姿をとどめている!
甲骨文字を含む漢字学の大家、東洋哲学の巨人である白川静博士は、「中国の文字において、『隹、唯、雖、誰』『應(応)、雁、鷹、䧚(雍)、擁』『雇、顧』『進、津、夼、携(攜)』、『厈、奪、奮』など、その習俗を直接に反映すると思われる多くの文字があることは、鳥の民俗を考える上からも、極めて貴重な資料といわなければならぬ。
そしてそのような習俗は、おそらく遠い無文字時代からあったものが、文字の成立する時期において、そのような観念を含むものとして文字的に形象化されたものであるから、その最古の観念をそこに定着させているものと考えてよい」と語っておられる。
神社の鳥居に関して昨今では、鳥居の起源は中国南部からタイ、ベトナムに分布する越族に求めるとする考え方が主流となっている。以下、鳥越憲三郎の『古代中国と倭族』・『古代朝鮮と倭族』の中ではこんな風に書かれているのだ。
タイ北部の山岳地帯に住むアカ族のロコーンと呼ばれる村の門の上には、数羽の木彫りの鳥が据えられている。また村の周りには結界を意味する注しめなわ連縄が見られる。門柱の根元には裸の祖父・祖母の像が向き合って立っている。これは「鳥居は陰陽交感の表也」に通じている 。
また、朝鮮南部には蘇塗ソッテといって、石を円錐状に積み上げその頂に鳥形の自然石を置く風習が今もなお残っている。また、低い石積みを作って、鳥の形象物を先端につけた木を立てる風習があり、これもまたソッテと呼ばれている。さらに、その低い石積みの上に天下代将軍・地下女将軍と墨書きされた柱が立っており、柱の頂には人面の木彫がある。
日本では、大阪府池上遺跡、山口県宮ケ保遺跡(いずれも弥生時代の遺跡)には木製の鳥形が出土している 。また、奈良県北葛城郡河合町の佐味田宝塚古墳から発見された家屋文鏡には屋根上に鳥がみられる。また、八王子郷土資料館にある家型埴輪の棟飾りに二羽の鳥がみられる。
これらをみると、タイのアカ族と朝鮮南部と日本には鳥の形象物を通して共通の民俗が認められる。アカ族は中国南方から戦禍を逃れて移住してきたといわれ、元は越人であった。
そう「呉越同舟」のことわざの中にある越人である!
「鳥占い」に関しては、「鳥」よりも圧倒的に「隹」字が多く使われる!
「隹」には「進」・「携」・「難」・「應」などがあり、これらは元々「鳥占い」に関わる文字であったものが、それらの祭祀的な意味が捨象されて後の意味に転じたものと思われる。
例えば、「進」の原意は「鳥占い」によって進退を決する意、「携」の原意は外出にあたって「鳥占い」のための鳥を携える意である。
「難」の原意は「鳥占い」において火矢を用いて鳥を驚かせる意、「應」の原意は「鳥占い」によって神意の応徴があることの意である。
このように、「鳥」と「隹」の文字を分類していくと、「隹」を含んだ文字群は、「鳥占い」と極めて関連性が深いということが分かる。一方「鳥」は、主に鳥の種類を表す意符として使われる。
「唯」が「鳥占い」において、神の承諾を得た肯定的神託である「しかり」であるのに対し、「雖」は「実行を保留すべし」という否定的な神の答えを意味する。
その理由は「雖」は「唯」に「虫」が付け加えられるからである。白川博士によると「唯」は巫女が祈るときの祝詞の容器を、口形として加えたものである。
その祝詞が蛇形の呪霊に侵されるときは、「雖いえども」という逆説態となると述べられている。
次に中東の古代メソポタミアであるが、この文明では楔形文字で記録された粘土板が大変有名である。
実はその粘土板に刻まれている内容の大部分は、「鳥占い」に関する文章であったのだ!
メソポタミアの人々は鳥占いが大好きだったようで、かなり体系化された占いの方法論が存在していたようである。その文章には文法的な決まりがあり、それは簡単に言うと「こういうことがあったら、こうなりますよ」という形式で、様々な前兆と出来事が結びつけられていた。
さらに、西洋の古代ローマでは、「鳥占い」がとても重要視されていた!
リーウィウスの 『ローマ建国史』 によれば、ローマ建国の時、都の中心をどこに置くかを「鳥占い」で決めたそうである。
以来、古代ローマの文化において、「鳥占い」は戦争など国家の重要なことを決定するための儀式としてドッシリと定着した!
アウグルと呼ばれる「鳥占い」専門の役人が任命されていたことは有名である。アウグルは鳥の飛び方や数、鳴き声や餌の食いつきなどを観察して読み解き、国事の吉凶を予測したのである。アウグルの仕事のほとんどは「鳥占い」であったので、鳥卜官と日本語訳されるている。
参照1:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』セキレイ
参照2:古代中国・日本の鳥占の古俗と漢字 張莉 同志社女子大学現代社会学部・社会システム学科准教授 ( 特別契約教員)
参照3:五十六謀星もっちぃ 鳥占について Jean Botter『最古の宗教 古代メソポタミア』法政大学出版局