たまに見るEテレの「こころの時代〜宗教・人生〜」は、番組名からのイメージ通り、いつもは円熟の世代の方々の出演が多い。にも関わらず、その回は珍しく若い女性が主人公であった。
題名は、「光に向かって」!
それは、見逃した2021年9月の再放送であった。
漫画家の高浜寛さん、彼女のアルコール依存症と作品との関係にまつわるお話であった。
高浜寛さんは、2018年に「ニュクスの角灯(ランタン)」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。
また、2020年には同じく「ニュクスの角灯(ランタン)」で「手塚治虫文化賞マンガ大賞」を受賞した、まさに今売れっ子の漫画家である。
「ニュクスの角灯(ランタン)」は、歴史を題材にしたフィクションである。西南戦争で親を亡くした内気な少女が、長崎で工芸品の輸出入を扱う道具屋で働くことになる。そんな少女は、店主をはじめ周りの人々や、舶来の文物に触れる中で次第に成長していく。そして、ひょんなことから少女はパリに渡ることとなる。そのパリの華やかな時代の陰で、それぞれに葛藤を抱えた登場人物が織りなす日常をとおして、その少女がさらに成長していく姿を描いた作品である。
中でも、作者の高浜寛さんによる綿密な時代考証や現地取材、実際に蒐集したアンティークの知識などが豊富に取り入れられていることが「ニュクスの角灯(ランタン)」の魅力の源泉である。
題名でもある「ニュクスの角灯(ランタン)」のブローチ、夜の女神であり、戦いを終わらせる神とも言われるニュクスがランタンを手に持ち闇を照らす姿が描かれている。このアンティークのブローチがこの物語を導いていくのだ。
アルコール依存症との数年に及ぶ様々な葛藤の中で、高浜寛さんはふとある日、一つの言葉に出会って立ち直る!
それがこの、「ニーバーの祈り」であった!
God grant me the serenity
To accept the things I can not change,
Courage to change the things I can,
And wisdom to know the difference
神様私にお与え下さい
変えられないものを受け容れる落ち着きを、
変えられるものを変える勇気を、
そして二つのものを見分ける賢さを
ニーバーの祈り(ニーバーのいのり: Serenity Prayer)とは、米国の神学者ラインホルド・二ーバー(1892–1971年)が作者であるとされる。当初、無題だった祈りの言葉の通称。serenityの日本語訳から「平静の祈り」、「静穏の祈り」とも呼称される。
この祈りは、アルコール依存症克服のための組織「アルコホーリクス・アノニマス」や、薬物依存症や神経症の克服を支援するプログラム12ステップのプログラムによって採用され、広く知られるようになったという。
「ニーバーの祈り」は「ニュクスの角灯(ランタン)」の中でも、大切な場面で登場する言葉でもある。
アルコール依存症を克服しようと模索する中、高浜寛さんは逃げずに自分と向き合い続けた。そして冷静にアルコールを摂取した状態では、シンプルな短編は描けるが、しっかりとした世界観を維持しながら描く長編は描けないと悟る。
まさにその時、彼女は変えられるのは自分であると勇気を出して自分を変えたのだ。
「ニーバーの祈り」の言葉を実践したのである!
そして、初めての長編であった「ニュクスの角灯(ランタン)」を描き上げ数々の賞に輝いたのである。
まさに、「光に向かって!」である!
参照:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
「高浜寛」「ニーバーの祈り」